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彼女と別れた理由


振り返って、人生の大きなターニング・ポイントをあげると、1976年5月〜8月この時期は最大ポイントのひとつだったと思う。そしてその当時の環境を考えると以下の3つの選択肢しかなかったのだが・・・

1.流行らない店を辞めてキョーコと若くして結婚する。

2.リョーコのヒモになってダラダラと暮らす。

3.店が潰れた事で、アパートに戻り普通の学生生活を送る。

しかし何故か上記以外の道をあえて求めた理由は・・・今、考えてもよくわからない。(笑)自ら決断したとはいえ、失ったものはあまりに大きく、そして誰もが深く傷ついた。

▼1976年5月---------

神戸のセンパイたちのバンドがスコッチ・バンクでLIVEをやる。というので、リョーコを伴って観にいった。

スタンダードなジャズ。
ボーカルの女性は「チャコ」張りのある中広域のノビはどちらかというとポップス向きな声だったが、この当時のLIVEはまだジャズが主流だった。

リョーコ
「あなたの知り合いっていう人は、ほんと魅力的な人ばかりね」

オレ
「チャコはオレにベースを教えてくれた師匠の恋人なんだ」

リョーコ
「きっとそこでも可愛がられていたんでしょ?」

オレ
「どちらかというと苛められてた(笑)」

オレたちは店内の中ほどのステージがよく見えるテーブルにいた。その目の前をキョーコが通り過ぎていった。新しく入ってきた客、男女4名のグループのひとりだった。彼女らは奥のテーブル席についた。

演奏が始まった。曲の案内をしながら、自分たちのグループが普段は神戸で活動している事なども話していた。

3曲目が終わったところで、いきなり

チャコ
「ユーイチ、ちょっと出てきてくれる?」

とマイクを通して声をかけられた。ほぼ満席に近い店内、ちょとした静寂・・・冷や汗をかきながら、それ以上延ばせない時間の中で覚悟を決めて前に出た。

チャコ
「1曲やろうよ」

チャコがそういうと、センパイのベースを受け取り、オレはチャコの後ろに回った。

チャコ
「彼は神戸の友人で、今は隣のお店「スピーク・イージー」に居ます。ディスコですが、興味のある方は是非行ってあげてください。^^『LIVEみた』って言えば、まけてくれるわよね?ユーイチ(笑)」

オレは親指を立てて応えた。

そして、その昔センパイに習って猛特訓した曲、途中でベースのソロが入るやつを1曲だけやった。本来であれはそれはとても楽しい時間のはずだったが、この時、妙にキョーコの視線が気になった。

リョーコ
「驚いた。^^」

オレ
「オレも」

リョーコ
「でも、すごく良かった」

オレ
「そう・・・」

リョーコ
「どうかした?」

オレ
「いや、緊張しすぎて頭が痛くなってきた」

リョーコ
「クスリ飲む?」

オレ
「いや、いい」

大怪我以来、頭痛持ちになっていた。緊張した状態が続いたりすると必ず頭痛が起きた。そして、その後もキョーコの視線はずっと感じていたが、途中で店を出るわけにも行かず演奏終了までまった。

終わるとチャコはオレたちのテーブルまでやってきた。友人のリョーコを紹介し、大げさに冗談を言い合い。「またいつか^^」と言ってオレたちは店を出た。

頭痛を理由にリョーコには先に帰ってもらい。オレは店に戻った。
キョーコが来たのは偶然なのか?センパイたちの様子から知り合いだとは思えない。偶然でないとしたら、何だ?考えを巡らすが答えは見つからない。

前田
「いいですか?」

オレ
「何?」

前田
「ユーイチLIVE観た!ってお客さんが・・・」

すっかり忘れていた。オレはフロントへ行き、その客とさっきの演奏のことを話しながら店内に案内した。伝票にはサインをしチャージカットとした。

前田
「もう1組来ましたけど?」

オレ
「わかった」

フロントへ行くと・・・キョーコたちだった。
同じようにLIVEを話題にしながら案内するが、キョーコは特に話しかけてこない。一番奥の席に案内し、ホールスタッフにサイン入りの伝票を渡した。そして、キョーコたちは1時間ほど居て帰って行った。


翌日・・・


喫茶「まほろば」

オレ
「おかーさんの具合どう?」

キョーコ
「まだ入院してる。。。」

オレ
「そっか。近いうちにお見舞いに行くよ」

キョーコ
「・・・」

オレ
「ん?どーした?」

キョーコ
「私、プロポーズされてるの」

オレ
「・・・」

いきなりだった。昨晩、何も話さず帰って行った時からなんとなく嫌な予感はあった。いやそれ以前にスコッチバンクでオレの横を通り過ぎた時にそれはすでに感じていた。その後の電話も口数が少なかった。そして「話がある」と告げられ待ち合わせる事になった。今日最初にキョーコの顔を見た時それは確信に変わっていた。

オレ
「昨日の背の高い方か?」

キョーコ
「うん」

オレ
「どんなやつなんだ?」

キョーコ
「東京の繊維会社の2代目で新しいブランドつくってやってる人」

オレ
「そっか」

キョーコ
「ユーイチが決めて」

オレ
「・・・」

本当であれば、オレは怒って「やめとけ!」と言わなければならないところだった。そしてソレはすぐ喉元まで出掛かっていた。

キョーコ
「昨日のひとが『リョーコ』さん?」

オレ
「・・・そうだ」

ここで「リョーコ」の名前が出てこなかったら・・・オレは予定通りのセリフを言っていたはずだった。

キョーコ
「私とその人とどっちをとるか決めてっ」

キョーコは真っ直ぐにオレを見ている。オレもしっかりとキョーコの目をみた。キョーコの目は蒼く光っていた。視線を外したのはオレの方だった。

オレ
「お前の思うとおりにすればいい」
思ってもいない言葉が出た。なんて卑怯でズルイことを言うんだ。もうひとりのオレがそう言ってる。

キョーコ
「帰る」
そう言ってキョーコは席を立ちそのまま出て行った。

追いかけろ!「ちょっと待て!」と言って引っ張ってでも連れ戻せ!早く!もう一人のオレが叫んでいた。

だが、オレは動けなかった。キョーコがリョーコの事をどれだけ知っているのか?そんな事はまったく関係なかった。もちろんキョーコとリョーコを秤にかけたわけでもない。

冷たくなった珈琲に口をつけた。ただ苦いだけの味。何故か涙が毀れそうになった。


▼1976年8月-----------


スピーク・イージーの閉店が決まり、関川以下のスタッフの整理もつき、夏が終わろうとしていた頃・・・

横山
「ムーさん。ちょっといいですか?」

オレ
「何?」

横山
「キョーコさん・・・結婚したの知ってましたよね?」

オレ
「・・・」

横山
「先週、キョーコさんのおかーさんが亡くなったそうです・・・」

オレ
「なんだとっ!」

横山
「ガンだったそうです」

オレ
「・・・」

瞬間的に涙が溢れ出した。声も出た。

横山
「ムーさん」

オレ
「うるさい・・・」

横山は更衣室から出て行った。

キョーコが結婚して東京で暮らしているという話は、演出家の石原さんから前に聞いていた。キョーコのおかーさんが「癌」だっというのは・・・知らなかった。

でも、今年の冬に「私が居なくなってもキョーコの事、お願いね」と言われた事を思い出した。今頃になって思い出すとは・・・何故、あの時気付かなかったのか!気付いていたらオレは・・・悔しくて哀しくてどうしようもなかった。

この日、オレは荒れた。
最後の打ち上げと称し、スタッフと共に深夜から道頓堀「田よし」で宴会をした。飲んだくれて店を出ると、不良グループが道頓堀に溜まっていた。

誰かが、そいつらと言い合っていた。

オレは無造作に近づき、相手を蹴っ飛ばした。それが切っ掛けとなり大乱闘が始まった。気がつくと俺は後ろから押さえ込まれた。振り向くと白いヘルメットに金色の桜のマーク。大人しくして周りをみると、大人数の警官に取り囲まれていた。後に語り草になる「中座事件」だった。


2日後・・・


摂津本山駅で降りた。
目の前の噴水が勢いよく水を飛ばしていた。すぐ右手の本山アーバン・ライフ・・・そこの1階にはすでに「アルファルファ」はなく、「惣菜」を売る店に変わっていた。サングラスをかけジーンズにTシャツ姿で「あおやま」に入った。

Y
「あーーー久しぶりじゃない」

オレ
「うん^^」

Y
「さっきケンジが帰ったところよ。残念がるだろうなー」

オレ
「ケンジさん元気?」

Y
「相変わらずクルマ潰し(レース)に夢中よ」

オレ
「羨ましい^^」

Y
「そうだ。クルマいつでも乗ってっていいよ」

オレ
「じゃー今日ちょっと借りるよ」

店内を見渡す。特に何も変わったところはない。カウンターに置かれた銀のシュガーポットはいつもピカピカに磨き込まれ、目の前のサイフォンは勢いよく珈琲をたてている。

熱い珈琲を飲んだ後、キーをもらって駐車場へ、SRの幌を後ろに畳みオープンにした。エンジンをかける。手入れが行き届いているようで、いい音がする。

2号線へ出て、芦屋川を北へ、岩園の交差点を右折したところで3速のままアクセルを踏む。確かなレスポンスで加速しながら、「警察学校前」「甲南高校前」のアップダウンのある大きなS字カーブを抜け、夙川へ・・・

マンションのわき道に駐車する。

エレベーターに乗り最上階で降りる。右から3番目のポーチ。表札はすでになかったが、インターフォンを押す。何度か試みたが反応はなかった。

諦めてマンションを出ようとすると、入れ違いに入ってきた住人らしき人に尋ねた。

オレ
「あのー7階の『橘』さんは?」

住人
「ちょっと前に引っ越したと思いますけど」

オレ
「そーですか。ありがとうございました」

もしかしたらまだキョーコのおかーさんの親戚か誰かが居るかも知れない。と思って尋ねてきたが、どうやら無駄だったようだ。クルマをそこに停めたまま、坂道を下ったところにある喫茶店に入った。

オレ
「アイス・コーヒーを」

馴染みのマスターは不在だった。暫くそこから外を眺めていた。この間来た時は冬でオレが大怪我した時だった。キョーコの家で3日間静養させてもらい、毎日ここへふたりでやってきた。それもずいぶん昔のことのように思えた。

キョーコ、どうして「癌」だと教えてくれなかったんだ。。。
オレ、おかーさんと約束してた事忘れてた。おかーさんに謝らないと・・・

色んな思いが交錯した。
そしてその店を後にした。目の前の大きな欅の木、遠くで蝉の声がした。その坂の上からの景色は良かった。まだまだ暑かったが、空は高く青がきれいだった。もう楽しかったオレの夏は終わったんだと思った。

オレは「あおやま」へクルマを返しにいった。


オレなりにケジメをつけようと思った。


スピーク・イージーはあと1週間で終わる。仕事の仲間も散った。学校にも行ってないし、音楽も途切れたままだ。すべてが中途半端で自信を失くし、オレは自分を見失っていた。

22時・・・11階。

オレ
「関川たちもいなくなった事だし、オレもひとりでやってくよ」

リョーコ
「・・・」

オレ
「店は来月から別の名前で別のグループがやるんだ」

リョーコはソファに座り本を読んでいた。オレの声が聞こえているのか聞こえていないのか?返事はない。
TVはただ点いているだけだった。すでにレコードも終わっていた。目の前のテーブルには潰したバドワイザーの缶。

オレ
「オレは社長との約束で、暫くは居残ることになった。もちろんペーペーで・・・もう何の力もなくなった」

リョーコ
「だから?」

オレ
「ひとりになって考えるよ」

リョーコ
「何を?」

オレ
「わからない」

リョーコ
「ここに居るとダメになるって事?」

オレ
「・・・」

リョーコ
「わかったわ。私も引っ越すことにする」

何がわかったんだ?たったコレだけか?たったコレだけの会話ですべてが終わってしまっていいのか?自分自身への問いかけなのか?リョーコに対しての問いなのか?自分で言っておきながら、あまりにもあっけない話の進み具合になんとも言えない割り切れない思いがあった。

オレ
「じゃーちょっと行ってくる」

リョーコの顔も見ずにオレは1110号室を出て店に行った。
そして2階のサウナの仮眠室で寝た。

次に11階に行ったのは3日後だった。
リョーコのいない間にオレの私物だけを引越屋に持たせ、新しく借りた西区の1LDKのマンションへ運びこんだ。

その夜に電話をした。

オレ
「オレだけど、悪いと思ったんだけど昼間に引越しをすませた」

リョーコ
「うん」

オレ
「店には暫く居るから」

リョーコ
「・・・」

オレ
「ありがとう」

リョーコ
「元気で・・・」

オレ
「リョーコ」

途中で電話は切れた。

そして、それっきり2度とリョーコと会う事はなかった。


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昔、言ったことがある。

「喫茶店だって、花屋だって何でもいいんだ。
オレはダイバーをして、外で稼いでくるから、その間何か
退屈しないで過ごせることをしてればいい。
どこか暖かいところで・・・」


今でも知らない街に行くと必ず喫茶店に入るし
花屋を探して花を買う。

そんな習慣がいつしかついてしまった。(笑)
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